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妄想 2014/07/19
むー。

朝一番、眠い目をこすりながら新宿へ。バルト9で『太秦ライムライト』を観る。50年以上、ひとつのことに打ち込んできたじじいのカッコよさ。ラストの殺陣を観るだけでも来てよかった。
そして2本目は『ポケモン』。正直、同時上映の短編は、ぼくにとってはなくてもかまわない存在。ANAの機内で放送するために必要だからかどうかは知らないが、短編をやらずにそのぶん本編を長くしてくれたほうがずっといい。特に今回のように、登場人物が多くてそれぞれをきちんと描こうという場合には。
まあ、見方を変えれば、あの尺でよく各キャラを描いたな、と感心もした。セレナとユリーカはいつも以上に可愛く、サトシは強くやさしく(シトロンはわりと通常運行だが)、ゲストの盗賊たちも悪くなかったし、ラストでその後を軽く見せていたのもよかった。
総じて、ここ5年では一番よかったのではなかろうか。
それでも、ぼくの中のトップ3、ラティ、初代ミュウツー、ルカリオの牙城を崩すにはいたらなかったか。

でもっとひそかに第7回。尺的にはこれを含めてあと3回。


       ――〈07〉――


 金曜の夕刻、カサブランカへとやってきたギャラガーは、まだ客の姿もまばらな店内をそっと見回し、カウンターの内側で手持ち無沙汰にしていたシャーリィに尋ねた。
「……ソワレは?」
「ソワレ? 酒を飲むにはまだ早いって、さっきノエルが強引に引っ張ってったわよ? おおかたいつものところでハンバーガーでも食べてるんじゃない?」
「そうか」
「ねえ、これって失礼な話じゃない?」
 シャーリィは頬をふくらませた。
「ハンバーガーくらいウチでも食べられるじゃないの。それをわざわざよその店に行くことないと思うけど」
「姐さんのはお上品すぎてあいつらの口には合わないんだよ。……ほら、あいつらはまだガキだから」
 ソワレたちとほとんど年の変わらないギャラガーは、そういってシャーリィのご機嫌を取った。シャーリィの作るハンバーガーは確かにうまいが、そのぶん値段が高い――とは、さすがにいえない。
 それに、ノエルがソワレをいきつけのバーガースタンドへ引っ張っていったのは、ギャラガーがそうしろといったからなのである。
「ジンジャーエール」
 カウンターにしわくちゃのドル札を放り出し、ギャラガーは電話の受話器に手を伸ばした。
「ビールじゃなくていいの?」
「まだ酒には早いだろ?」
 さっそく出てきた炭酸で喉を潤しながら、アルバたちのアパートの電話番号をダイヤルする。知らず知らずのうちに、ギャラガーの指はせわしなくカウンターを叩いていた。
 ほどなくして、落ち着きのある声が聞こえてきた。
『――もしもし』
「あ! アルバか? おれだよ」
『ああ……久しぶりだな、ギャラガー。元気だったか?』
「ああ」
『いつもすまないな。ソワレのことだ、いろいろとギャラガーたちに面倒をかけているんだろう?』
「そりゃまあ――」
 苦笑混じりに言葉を濁し、ギャラガーはあらためて切り出した。
「おまえ、これからバイトか?」
『そうだが……ソワレならいないぞ? もうそっちに行っているんじゃないのか?』
「あ、いや、きょうはおまえに用事があってな」
『私に?』
「用事というか、まあ、少し混み入った話があるんだが――バイト前じゃ電話で長話ってのもアレだな。あしたはどうだ? 土曜日なら大学も午前中だけなんだろ?」
『すまない、あしたはバイトに入る時間がいつもより早いんだ。バイトといっても、タキシードの採寸に行くだけなんだが』
「タキシード? 何でまた?」
『今度フロアではたらかせてもらえることになったんだよ』
「へえ! 出世したな、アルバ」
 ソワレやノエルと違って、ギャラガーはアルバがどういう場所ではたらいているかを知っている。そういう店で接客を任されることがどれだけ神経を使うかということも、それなりに想像はできる。自分たちと同じスラムで育ったアルバが、そうした仕事を任されるまでになったということが、ギャラガーにはとても嬉しく誇らしく、同時に少しだけさびしくもあった。
『採寸だけならそう遅くはならないと思うし、次の日は休みがもらえる。話があるなら日曜日でどうだ?』
「日曜か――」
 ギャラガーがアルバに相談したかったのは、まさにあす、土曜の夜のことなのである。日曜に時間を作ってもらっても意味はない。
 しかし、ほんの些細な口調の変化からも、アルバは敏感にこちらの動揺を読み取ってくる。落胆を悟らせまいと、ギャラガーはあくまで明るい声で大仰にうなずいた。
「そうだな……じゃ、日曜はひさびさにこっち来いよ! おまえのおごりでみんなでメシでも食おうぜ」
『割り勘なら行くよ』
 アルバの苦笑が耳に痛い。
「ははっ、冗談だよ。じゃあ、日曜日にな」
 受話器を置いたギャラガーは、ジンジャーエールを一気に飲み干し、空のグラスをシャーリィのほうへ押し戻した。
「……姐さん、ビール」
「お酒にはまだ早いんじゃなかったの?」
「いや、まあ――」
「どうしたの? 何かあったわけ? 今の、アルバでしょう?」
「…………」
 シャーリィの問いには答えず、ビールの白い泡に口をつけ、ギャラガーは深い溜息をついた。
 ソワレとの対戦が決まってからの〈ブラーズ〉の動きは驚くほどすばやかった。ストリートファイトに関心のある者たちの間では、すでにソワレとシーモアのどちらが勝つかで大きな話題になっている。確証はないが、十中八、九、〈ブラーズ〉がソワレの逃げ道をふさぐために話を広めたのだろう。ついでにいえば、「本格的なボクシング経験のあるシーモアのほうが有利」という巷の下馬評も、〈ブラーズ〉がばらまいた噂が影響しているのかもしれない。
 ここまで人々の口の端に上ってしまった以上、もはやソワレはシーモアとの対戦を避けられないだろう。もしこれでソワレが闘いを回避しようとすれば、〈サンズ・オブ・フェイト〉が〈ブラーズ〉に敗北したことになるだけでなく、ストリートファイターとしてのソワレのキャリアも、ここで完全に命脈を絶たれてしまう。
 おそらく、アルバやフェイトが説得したとしても、もはやソワレを思いとどまらせることはできまい。
 そう考えると、さっきアルバに相談できなかったのは、アルバに心配をかけないという意味ではむしろよかったのかもしれない。ギャラガーにできることといえば、あとはもう、あすの闘いでのソワレの勝利を神に祈ることくらいだった。
「……ホント、頼むぜ、ソワレ……」
 ギャラガーは胸の前で小さく十字を切り、ビールをあおった。
「何のまじないだ、ギャラガー?」
「ぶ!?」
 いきなり背後から肩を叩かれ、ギャラガーは飲んだばかりのビールを吐き出しそうになった。
「シャーリィ、俺にもビール。ジョッキでな」
「は〜い♪ おねえさん、きちんと現金で払ってくれるお客さんには愛想いいわよ〜♪」
 シャーリィは鼻歌混じりにサーバーからビールをつぐと、ギャラガーの隣に座ったフェイトの前へジョッキを置いた。
「――それにしても、おまえも苦労を背負い込むタイプだな」
「え、え?」
 慌てて口もとをぬぐい、ギャラガーはフェイトの顔を見返した。
「ソワレのことだよ。――あした、〈ブラーズ〉のリーダーとやり合うんだろう?」
「し、知ってたのか、フェイト……」
「この手の噂は黙っていても聞こえてくるもんさ。……もっとも、誰かがわざわざ吹聴して回っているとしか思えない速さで街中に広まりつつあるみたいだけどな」
「フェイトもそう思うか……?」
「ソワレのヤツ、〈ブラーズ〉の連中にうまく乗せられちまったのかもしれないな……」
 頬杖をつき、フェイトは嘆息した。
「ど、どうしたらいい、フェイト? おれ、アルバに相談しようと思ったんだけど――」
 ギャラガーはついさっきアルバと電話で話したことをフェイトに語った。
「どうもこうも、こうなったらソワレに勝ってもらうしかないだろう? 本人だってそのつもりだろうし」
「……勝てるかな?」
「そうだな……まあ、ソワレならやってくれるとは思っているんだが、俺はむしろ――」
 思案顔のフェイトの呟きはそこで途切れた。何とも気に懸かる兄貴分の沈黙に、ギャラガーはごくりと喉を鳴らした。
「……アルバがバイトをしている店は、確か『サウスベイ・キッチン』だったな?」
「えっ? あ、ああ……確かそうだったと思うけど」
「マダム・リーの店か――」
 フェイトは静かにうなずき、ジョッキを傾けてギャラガーの背中をぽんぽんと叩いた。
「……ま、飲めよ」
「のっ、飲めって――ソワレのことはどうするんだよ!?」
「このことはソワレにはいうな。ノエルやジェイたちにもだ。……俺がどうにかするから」
「どうにかっていってもよう……」
「いいから俺に任せておけよ。……それよりおまえは、ソワレがあしたの闘いに集中できるようにいろいろと心を砕いてやってくれ」
「そりゃあ、いわれなくったってそうするつもりだったけど……」
 浮かしかけた腰をスツールに戻し、ギャラガーはぐびりとビールをすすった。
 一方はぼんやりと天井を見上げ、もうひとりはじっとうつむき、それぞれビールをすすっている。
 そんなギャラガーとフェイトの姿を、シャーリィが微笑ましげに見つめていた。